浄瑠璃坂の仇討ち・反響編【紀伊国新宮水野家(和歌山県)60】

前回みたように、浄瑠璃坂で行われた敵討ちでは、見事源八が父の無念を晴らすことができました。

事件発生から江戸っ子の心をつかんだ源八の敵討ちは、その後も影響を残していきます。

そこで今回は、浄瑠璃坂の仇討ちが後世に残したものをみてみましょう。

討入りの反響

浄瑠璃坂の仇討ちは、将軍のお膝下で行われた大きな仇討として、当時からたいへん評判となっただけでなく、のちのちまで語り継がれることになりました。

延享元年(1744)には『浄瑠璃坂幼敵討』と題して歌舞伎が初演されたのをはじめ、歌舞伎や講談で盛んに演じられるようになります。

そして、赤穂浪士の討ち入りとともに江戸二大仇討ち、あるいは鍵屋の辻で有名な伊賀越仇討ちを加えて江戸三大仇討ちの一つとして喧伝されるようになったのです。

「義士夜討図」(「曽我忠臣蔵錦絵幷番付集」国立国会図書館デジタルコレクション)の画像。
【「義士夜討図」「曽我忠臣蔵錦絵幷番付集」国立国会図書館デジタルコレクション】

ところで、元禄15年(1702)12月15日の大石内蔵助率いる赤穂浪士の討ち入りと浄瑠璃坂の仇討ち、なんだか似ているように思いませんか。

大人数で仇の屋敷に討ち入ることや、火消装束に身を包むなど、共通する要素も多く見られます。

これらは大石内蔵助が浄瑠璃坂の仇討ちを参考にしたからだといわれています。

とくに、討ち入り後の行動、整然と引き揚げて自首したうえ口上書を差し上げて処分を受ける基本路線は、しっかりと継承しているのです。

つまり、浄瑠璃坂の仇討ちは、およそ30年後に起こった赤穂浪士討ち入りのお手本となったとされています。

文学の舞台・浄瑠璃坂

浄瑠璃坂の仇討ちは、近代に入っても人気を集めました。

大正5~6年には中里介山が『浄瑠璃坂の仇討』で、また昭和4年には直木三十五が『敵討浄瑠璃坂』で小説化しています。

直木三十五(Wikipediaより20220226ダウンロード)の画像。
【直木三十五(Wikipediaより)】

このように、広く名の知られた浄瑠璃坂は、地域のランドマーク的存在となって、数々の文学作品に描かれました。

その例をいくつか見てみましょう。

「要吉は地面を見詰めたまヽこつ〱洋杖の尖で小石を突きながら、浄瑠璃坂を登つて行つた。かねて隅江を故郷に帰したら、自分も住み旧した丸山の家を出ようと考えてゐた。」森田草平(『煤煙』三〇・明治42年)

「市谷見つけから、田町うらへ入って、合羽坂、浄瑠璃坂―よく仇討の講談に出る処だ、山の手だけれど江戸らしい。並んで名所があるんです。」(泉鏡花『本妻和讃』大正14年)

この合羽坂は市谷防衛省の北を登る坂です。

泉鏡花(『鏡花全集』巻之一、泉鏡花(岩波書店、1942)国立国会図書館デジタルコレクション)の画像。
【泉鏡花『鏡花全集』巻之一、泉鏡花(岩波書店、1942)国立国会図書館デジタルコレクション 】

浄瑠璃坂上

それでは、散策に戻りましょう。

浄瑠璃坂上から北に進むと、まもなく道は行き当たりとなって丁字路に行き当たります。

ここを左折して西に進みましょう。

すると前方に両側が趣のある石垣の細い階段が現れました。

この陸橋が「ごみ坂」で、その下に広大な工事現場がひろがっています。(2021年1月時点)

この工事現場は大日本印刷の工場があったところで、現在は再開発が行われているのです。

そして、道の南側にある大日本印刷市谷研修所の西半部分が、浄瑠璃坂の仇討ちの舞台となった奥平隼人の屋敷跡となっています。

長延寺谷

ここから谷を渡る陸橋を歩きましょう。

この谷は切絵図に「長延寺谷」と記されていますが、この名は谷の西側に長延寺があったことに由来します。

陸橋から眺めると、谷の東側は崖になっていて、これが市谷砂土原町との境をなしていたのがよくわかります。

崖の上の高台には新宮水野家や幕府の火消同心組屋敷が置かれ、いっぽうで谷底の東側には長延寺谷町、西側には長延寺門前町となっていたのです。

谷を下っていくと、崖がしだいに低くなって、これを上る道が見られます。

切絵図をみると、ここから南に新宮水野家上屋敷の正門が置かれていたようです。

新宮水野家市谷浄瑠璃坂上・中屋敷付近「市ヶ谷牛込會圖」〔部分〕(戸松昌訓(尾張屋清七、嘉永4年)国立国会図書館デジタルコレクション)の画像。
【新宮水野家市谷浄瑠璃坂上・中屋敷付近「市ヶ谷牛込會圖」〔部分〕戸松昌訓(尾張屋清七、嘉永4年)国立国会図書館デジタルコレクション】
新宮水野家市谷浄瑠璃寺上屋敷正門跡付近の画像。
【新宮水野家市谷浄瑠璃寺上屋敷正門跡付近】

ここまで浄瑠璃坂の仇討ちについてみてきました。

次回は、新宮水野家浄瑠璃坂上屋敷についてあらためてみてみましょう。

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