橋の名建築、秀麗瀟洒な名橋 白鬚橋(しらひげばし)③

前回まで白鬚橋が架けられた場所についてみてきました。

つぎは白鬚橋そのものについてみていきましょう。

白鬚橋の橋名板の画像。

現在白鬚橋のあるこの場所に橋が架けられたのはかなり新しく、大正2年4月に着工、翌3年5月竣工しています。

これは、橋長百三十間、幅二十四尺の木橋でした。

じつは、この橋は国や東京市が架けたのではなく民間で架けられた橋、今でいう「民間活力の導入」ですね。

地元の人々が資金を出し合って「白鬚橋株式会社」を資本金100,000円で作り、墨田区側の橋際に番小屋を置き、大人1人1銭の渡銭をとって維持費に当てることにしました。

ところが、収支が合わず渡銭を1銭の値上げ、それでも経営はうまくいかなかったようです。

架橋から10年を超えると橋が傷んで通行が危険になったので、会社方式の運営をあきらめて買い上げの陳情を行いました。

その結果、大正14年には東京府がこの橋を買い取り、東京府が維持管理する橋となります。

この木橋の頃の白鬚橋を永井荷風は次のように回顧しています。

「わたくしは不図、大正2二三年の頃、初て木造の白鬚橋ができて橋銭を取っていた時分のことを思い返した。隅田川と中川との間に広がっていた水田隴畝が、次第に埋め立てられて町になり初めたのも其頃からであろうか。」(永井荷風『寺島の記』昭和11年4月)

白鬚橋の画像。

そして関東大震災後の都市計画事業の一環として、鉄橋への架け替えを決定します。

当初の木橋が老朽化したうえに、震災復興で市街地が拡大して交通量が増加することを見込んでの先行投資的意味合いもあったのでしょう。

こうして昭和3年7月に起工、同6年6月に約三年の歳月を経て、橋長167.63m、幅24.14mの鋼ブレストリブ・バランストタイドアーチ橋が竣工しました。

この新しい橋について、永井荷風は次のように記しています。

「二三町にして白鬚橋の袂に至る。其形永代橋に似たる鉄橋なり。橋をわたりて橋場の岸に至るに、物揚場の鉄骨のかげに真崎稲荷の石灯籠と石浜神社の鳥居の立ちたるさま見るも哀れなり。」【永井荷風『断腸亭日記』昭和10年8月】

それでは、荷風の意見を検証するために、実際に永代橋と白鬚橋を比べてみましょう。

永代橋は大正15年完成の鋼バランストタイドアーチ橋で橋長184.7mです。

一方の白髭橋は昭和6年完成の鋼プレストリブ・バランストタイドアーチ橋で橋長168.8mです。

白鬚橋の方が新しく、また一回り小さいのですが、両者ともバランストタイドアーチ橋という点では共通しています。

しかしアーチ部分に注目すると、永代橋が分厚い鋼鉄を何枚も重ね合わせてあるのに対して、白鬚橋は枠部分に太い鋼材を使ってその間をトラスでつないでいるのがわかるでしょうか。

この違いはなぜ起こったのでしょう?

名高き永代橋は東京の玄関口を飾る橋として復興で特別力を入れた橋です。

そこで、強度はもちろん見た目にもこだわりましたので、使用する鉄も軍艦用の高級品デュコール鋼を使用、そのうえ使用量もまた膨大で、橋の重量もケタ違い、したがって経費も莫大となるのは言うまでもありません。

このように、震災後いち早く造られた永代橋は、復興事業の目玉としての役割を担っていました。

一方の白髭橋は、東京の最重要交通路を整備する環状道路(今日の明治通り)の一部となる重要な橋なので、なにより強靭な橋を作る必要に迫られていました。

しかも白鬚橋が造られたころは復興事業も終わりに近い頃で、復興予算も底をつきかけていたのです。

しかし、復興事業の中で日本の橋梁技術は飛躍的進歩を遂げつつあり、厳しい条件にも対応できるまでになっていた。

設計者の増田淳は、アーチにトラスを使ったプレストリブ・バランストタイドアーチ橋を採用します。

これによって、使用する鉄の量は永代橋の約半分に抑えられて経費節減と橋の重量軽減の両方の課題を達成したのです。

つまり、低予算化と強靭な橋の建設という二つの課題を一挙に解決するとともに、軟弱地盤を克服することまでできたのでした。

昭和22年撮影空中写真(国土地理院Webサイトより、USA-M372-152)〔部分〕 の画像。
【昭和22年撮影空中写真(国土地理院Webサイトより、USA-M372-152)〔部分〕】
昭和54年撮影空中写真(国土地理院Webサイトより、CKT794-C8B-11)〔部分〕の画像。
【昭和54年撮影空中写真(国土地理院Webサイトより、CKT794-C8B-11)〔部分〕】

こうして誕生した名橋・白鬚橋ですが、独特の雰囲気を持つ橋として広く知られるようになります。

次回では白鬚橋のもつ独特の魅力について探っていきたいと思います。

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