藩消滅【維新の殿様・五島(福江)藩五島家編㊵】

前回は苛烈を極めた明治のキリシタン弾圧「五島崩れ」をみてきました。

そこで今回は、明治時代に、あっけなく藩が消滅してしまう前後をみてみましょう。

廃藩置県と盛徳の死

藩主・五島盛德は、藩名を五島藩から福江藩に改称するとともに、明治2年(1869)2月21日藩治改正によって藩庁を廃止し、代わって治政所をおきました。

また同年3月には版籍奉還を願い出て、5月に藩主盛德は福江藩知事に任ぜられています。

さらに明治4年(1871)7月には廃藩置県が断行されて、福江藩は7月14日に福江県となったことで藩が消滅し、盛徳は藩知事を解職されたのです。

この福江県も明治4年(1871)11月14日の府県統合により、島原県・大村県・平戸県とともに長崎県に統合されて消滅。

しかし、藩が財政破綻にまで追い込まれていたことを考えると、いたし方ないところなのかもしれません。

盛徳は9月に命を受けて上京し、もとの五島藩上屋敷である東京麻布鳥居坂町22番地を下賜されて、ここに邸宅を構えます。(『華族銘鑑:鼇頭』長谷川竹葉編(青山堂、1875))

しかしそのわずか4年後の明治8年(1875)11月11日、病にかかり東京の邸宅で死去しました。

新政府の決定に振り回される五島ですが、この後どうなってしまうのでしょうか。

明治の五島盛成

じつは、先代盛成が自らの藩政改革を継続し、五島で大活躍を見せていたのです。

五島盛成(Wikipediaより20210904ダウンロード)
【五島盛成(Wikipediaより) 歴代藩主の中でも屈指の教養人として知られていました。明治になってからは、隠殿屋敷に住んで五島の発展に尽くしています。】

前にみたように、安政5年(1858)1月21日に隠居して嫡男盛德に家督を譲った盛成でしたが、隠居後も藩の実権は握ったままで、その活動は衰えることを知りません。(第35回「五島盛繁・盛成の藩政改革と有川物産会所」参照)

慶応3年(1867)4月には三井楽の原野を開墾する計画を立てて、池を包むことを企画して鍬立てなどを行いました。

明治維新後はいったん上京するものの、すぐに五島に戻り、明治10年(1877)には石田城の城郭や土地・竹木を自分の金で購入して旧藩時代の体制の保持を願います。

そして、石田城内にあった藩校跡地に屋敷を構えて隠居所としました。

盛成が築いた屋敷内には藩校時代から残る遺構「心」字形の池を中心に、深い森に包まれて「隠殿屋敷」「五島屋敷」と呼ばれて、現在も地域の人たちが大切に守っています。

されに、盛徳の急死に伴っては嫡子・盛主を五島の屋敷に引き取って自ら養育したのです。

五島盛主(もりぬし・1868~1893)

明治元年(1868)5月14日に盛徳の子として生まれ、名は源二郎です。

父・盛德が急逝した時、盛主はまだ8歳でしたので、東京麻布東鳥居坂町の邸宅を残して五島に住む祖父・盛成の下で養育されました。(『華族部類名鑑』安田虎男(細川広世、1883)

ちなみに、東鳥居坂町の邸宅は、その南半分を明治14年(1881)に区役所建設用地として麻布区に売却していることから、このころ手放したとみられます。(『麻布区史』、第4445回「五島藩六本木上屋敷と五島子爵家鳥居坂邸を歩く」参照)

そして盛主は成人すると、東京府麴町区三番町十番地に邸宅を移して(『華族名鑑 新調更正』彦根正三(博公書院、1887))佐貫藩阿部正恒二女の興(おき)(明治3年8月11日生まれ)と結婚、さらに明治17年(1884)に子爵に叙されました。

その後、東京府麴町区中六番町八番地へと邸宅を移しています。(『華族名鑑 明治22年版』彦根正三(博行書院、1892))

そして、盛主が立派に成人したのを見届けるように、盛主の祖父で先々代当主の盛成が明治22年(1889)4月16日に五島で没しました。

盛主はその後さらに、東京府牛込区牛込若松町43番地(『華族名鑑 明治23年版』彦根正三(博行書院、1892))へ邸宅を移したのは、東京専門学校(のちの早稲田大学)政治科に入学したからでしょう。

そして、健康に恵まれなかったからなのでしょうか、越後国新発田藩溝口直溥六男・歡十郎(明治6年7月23日生まれ)を養嗣子に迎えました。

明治25年(1892)に東京専門学校政治科を卒業しますが、その翌年の明治26年(1893)11月28日に腸チフスにかかって25歳の若さでで没しています。(『通俗五島紀要』)

今回は、明治時代に藩が消滅してからの五島家をみてきました。

そこで次回は、五島子爵家を継いだ五島盛光についてみていきましょう。

(今回の文章は、文中に記載した文献と、『日本地名大辞典』『三百藩藩主人名事典』『物語藩史』『平成新修旧華族家系大成』に基づいて作成しました。)

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