前回は、海を渡った工芸品の数々をみてきました。
今回は、「第2章 武士の都のものづくり」は、江戸の職人たちを俯瞰するコーナーからスタートです。
「近世職人絵尽」など職人たちの姿を伝える資料や、刀剣や印籠、甲冑など江戸の職人たちの傑作が並んでいます。
展示品は江戸東京博物館所蔵品が中心で、一度見たことがあるような資料が多く並んでいました。
このコーナーでは、長曽祢乕徹の長刀は必見と聞いていたので、これをみない手はありません。
乕徹の長刀は作例が二つしかないそうで、本品はとても貴重なものだそうです。
確かに全体に厚みがあって重そう、えらくしっかりした作りではありませんか。
でも、刃紋が直刃でなく乱刃、すごくにえが目に付きます。
乕徹さんがその気になれば、こなのもできるのか!と驚きです。
そしてやっぱり、恐ろしく切れそうな感じで、すごみにちょっと背筋が凍る感じがしました。
「綾杉地獅子牡丹蒔絵十種香箱」は、第1章に負けない緻密で華麗な逸品、しばらく見入ってしまいました。
不思議だったのが「土俵軍配意匠煙草盆」。
発想が面白いし、作りも素晴らしいのですが、明らかに使いにくそうです。
機能よりも洒落を重視しているので、きっと使いにくいのをがまんしてでも周りの人に感心してほしいのでしょう。
これが江戸っ子の粋なのかなあ、と感心せずにはおれません。
江戸後期の天保15年(1844)明珍宗保作の「紺糸素懸威五枚胴具足」はえらく古風な印象をうけました。
あえて復古調なのかなあと思いつつ、写真を撮って進みます。
以後の展示は、伝説級の凄腕職人の技を伝えるコーナー。
次の「第3章 江戸の蒔絵師・羊遊斎と是真」は超絶技巧の蒔絵師、海外で絶大な人気を誇る原羊遊斎と柴田是真の作品が並んでいます。
なんといっても面白いのは、作品とともに下絵や指図がいっしょに展示されているところ。
羊遊斎の作品に添えられた酒井抱一の下絵は、さすがにうまい!そして羊遊斎が見事に再現しているのにもビックリです。
「雲雀文蒔絵軸盆」は二人のコラボがピタリとはまって感動モノの逸品が誕生しているのには感心しました。
羊遊斎は、日本のコラボ作品の先駆けで、なかでも酒井抱一の仕事がみごとです。
超絶技法の蒔絵師のもう一方、柴田是真の作品です。
じつは是真の工房が石切河岸(現:浅草橋1丁目)に会ったこともあり、彼の作品が今回の展覧会を見る目的の一つでした。
彼の作品は、ある種の狂気に近いものすら感じずにはおれない、私の想像をはるかに超えるすさまじさです。
「古墨形印籠」は、その極めつけの逸品といってよいでしょう。
本に掲載された有名な古墨の墨影(おそらくはそれを書写したもの)をみて実物を忠実に再現したものだとか。
墨の欠けやひび割れまで忠実に漆で再現したこの作品からは、凄まじい技術力と執念を感じずにはおれません。
是真は優れた画家としても知られているのですが、これは「正月飾図」「絵馬 僧正坊と牛若丸(柴田是真絵様手控類)」を見たときに納得がいきます。
下書きなしの下絵ですが、迷いのない力強い線は、是真の持つ高い描写力を思い知ったのでした。
また、和紙問屋の榛原聚玉堂の団扇絵コレクションは、現代でも全く色褪せない斬新さと美しさを兼ね備えた素晴らしいい作品群で、今すぐに商品化してほしいくらいカッコいいもの。
この団扇絵からは是真の持つ極めて高いデザインセンスを見てとることができました。
柴田是真は、蒔絵の技法、画力、デザイン性という三点で極めて優れている上に、「古墨形印籠」にみられた諧謔性をも兼ね備えた人だったのですね。
このことから「江戸の職人の最終形」と呼ばれるにふさわしい人物と納得がいくのですが、その一方でやはり実用性は二の次、重きを置いていないと感じずにはおれません。
この点こそがまさに「江戸っ子の粋」なのでしょう。
そういう意味で、柴田是真は江戸を代表する職人なのだと大いに納得したのでした。
次回は、江戸時代に花開いた工芸のその後をたどります。
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