前回は新宮と新宮水野家に私が出会ったいきさつを見てきました。
これからは新宮と新宮水野家をみていくにあたって、まず現在の新宮についてみることにしましょう。
新宮
新宮市は、和歌山県の南東部、熊野川右岸に位置すし、熊野灘に臨む町です。
中心市街地近くには、熊野三山の一つである熊野速玉大社が鎮座していて、その通称である新宮が町の名の由来です。
古くから新宮の門前町として発達し、熊野地方の中心都市としてにぎわいます。
さらに、近世には水野氏が丹鶴城(新宮城)を築き、その城下町としておおいに発展しましたが、これは後でたっぷりみることにしましょう。
古くから熊野川流域で生産された木材の集積地であり、現在でも製材、パルプ、製糸などの工業が盛んです。
いっぽう、市内にある浮島の森は、学術上の重要性から藺沢浮島植物群落として国指定天然記念物に指定されています。
また、熊野速玉大社が鎮座していることもあり、世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」や、絶景を誇る瀞峽への観光拠点としても知られています。
紀伊半島
ここで少し視野を広げて、新宮が位置する紀伊半島についても見ておきましょう。
紀伊半島は、近畿地方の南部にあり、太平洋に突き出した日本最大の半島です。
三重県の櫛田川と和歌山県の紀ノ川を結ぶラインを東西に走る中央構造線よりも南の地域を指しますが、その大半が千メートル級の山々が連なる紀伊山地で、山塊が海岸近くまで迫り、ほとんど平野がありません。
このように、紀伊半島は山が多い地形のため、人口は海岸部に集中するとともに、海岸線は入り江や屈曲が多く良港に富んでいます。
なかでも新宮は、紀伊半島の深い山々から流れ出る大河・熊野川の河口に位置するため、山々が生み出す産物が集まる場所となっているのです。
新宮領
ここで、水野家の所領であった新宮領についてあらためてみてみましょう。
新宮藩は、元和5年(1619)に水野重央が入封した時点で、その所領は三つに分かれています。
中心となるのは、牟婁郡90ヶ村・2万5,827石、さらに和歌山本藩内に名草郡・有田郡・日高郡の三か所で5ヶ村・4,287石の飛び地がありました。
これに、和歌山本藩に属する新宮与力知5,300石を合わせて所領は3万5,000石。
このように、所領の中心は紀伊国牟婁郡で、のちの和歌山県東・西牟婁郡を中心に、紀伊半島の南東部にあたる広大な範囲です。
この所領のほぼ中央を南流するのが熊野川で、その河口右岸に本拠となる新宮があります。
新宮の名は熊野三社の一つ、熊野速玉大社が一般に新宮と呼ばれていることにちなんでいます。
この熊野三社については、のちにみることにしましょう。(第4回「蟻の熊野詣」参照)
温暖多雨な気候
新宮は、太平洋に沿って長く伸びる紀伊国のなかでも紀南と呼ばれる地域に属しています。
紀南は、温暖多雨の南国的気候で、年間降水量が山間部で4,000ミリを超える日本有数の多雨地帯。
しかも、年平均気温が海岸部で16~17℃と温暖なので、樹木の生育がはやく、林業が盛んでした。
災害
いっぽう、紀南は災害が多いことでも知られています。
紀南は台風の常襲地帯であるうえに、山岳地帯であるため、水害がたびたび起こったのです。
なかでも、明治22年(1889)8月の台風による豪雨は大水害を引き起こして、紀南地域に深刻な被害を与えました。
この大水害で、古代から熊野川中州の大斎原にあった熊野本宮大社の社殿が倒壊・流出し、現在地の高台に移転せざるを得なくなっています。
また、この大水害で隣接する奈良県十津川村が壊滅的被害をうけて、北海道に集団移住したことから、十津川水害と呼んでいます。
また、南海地震による津波の被害も周期的に起こっていて、かつては紀南をふくむ和歌山県が災害県と呼ばれることもあるほどでした。
世界遺産・熊野古道
熊野といえば世界遺産にもなっている熊野古道が海外からの観光客にも人気なのは御存じの方も多いのではないでしょうか。
熊野古道は、古来より信仰を集めた熊野三山、すなわち熊野本宮大社、熊野那智大社、熊野新宮大社への参詣道です。
また、熊野は勇壮な祭が多いことでも知られています。
新宮出身の作家・中上健次が『火まつり』で描いた神倉神社の御燈祭(おとうまつり、お灯祭)、熊野速玉社の熊野速玉祭御船祭り、熊野那智大社の扇会式(那智火祭り)などが有名です。
そのほかにも熊野那智大社の御神体、高さ133mを誇る那智大滝は日本有数の規模を誇るもの。
また、那智大滝のある那智勝浦町には、補陀落信仰の中心だった補陀落山寺も広く知られています。
温泉の宝庫
また、熊野は歴史ある名湯が多いことでも知られています。
例を挙げると、中世熊野参詣の前後に利用された湯峰温泉、勝浦温泉、川湯温泉などです。
今回は、新宮についてみてきました。
次回は、新宮水野家のおよそ500年の歴史を、年表形式で一気に見してみましょう。
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