前回まで竜閑さくら橋についてみてきました。
とくに、昼と夜の顔がまるで違うことは、この橋の最大の特徴といってよいでしょう。
では、なぜこの橋は こうも昼と夜で見せる表情が違うのでしょうか。
まず昼の顔について おさらいしてみましょう。
この橋は、大手町のビジネスセンターから利用しやすいことはもちろん、周囲の環境と調和することを目指しています。
例えば冒頭で見た、子供たちが電車の通過を眺めていた光景を振り返ってみましょう。
それはたまたま隣にあったからという偶然ではなく、その裏に実に様々な工夫がなされているのが見て取れます。
電車の走る線路と橋の高さをそろえたり、高欄を工夫して電車を見やすいものにしたり、安心して見られるように橋面を段差のないフラットな形にしたり、橋上になるべく構造物を置かないようにしたりといった工夫を重ねた結果、子供たちでも電車を見やすい環境が作り出されているのです。
橋の断面形状を特殊な形にしていることも同様です。
神田川・日本橋川クルーズでは、ただでさえ頭上を首都高が覆ううえに、その支柱があって歴史的建造物が見えにくい状況です。
そこで、この橋から見どころの一つであるJR外濠橋梁と付属の紋章が目やすいように、また川から見て視界を制限せず、かつ圧迫感を与えないように工夫されたものなのです。
また橋の袂には約1000㎡の橋詰広場を整備していることも素晴らしい工夫です。
桜を植えるなどして四季折々の風景が楽しめるのはもちろん、木々の配置から自然に橋へアプローチする道筋がって、目にもやさしく風も心地よいので、橋を渡るのが何だか楽しみになってきます。
このように、昼の竜閑さくら橋は周りの引き立て役に徹しているのです。
一方で夜の顔は全く違ったものでした。
大手町のビジネス街を彩る高層ビル群を背景に、照明を効果的に使って橋に物語性を演出して、この町の象徴的存在にまでなっています。
光に彩られた大階段、まるで巨大なランウェイのような橋上、お姫様が舞台に上がる登場口かせり出しのようなスケルトンのエレベーターと、この橋を渡ることがまさに一つのストーリーになっているのです。
そう、この橋を渡る人すべてをシンデレラに変えてしまう魔法の装置になっているのです。
この橋を昼渡る人は、仕事に行きやすくなったり、電車などの周りの物を楽しめたりと、橋が便利な道具になっていました。
ではこの橋を夜渡る人はどうでしょう。
橋を渡る人の多くは、大手町のビジネスセンターに通うビジネスマンです。都会的でスタイリッシュな文化を持つ人たちです。
一方、この橋を渡った先にあるのは、東京を代表する赤ちょうちんの町、神田です。
まさに神田は伝統文化と大衆文化が融合した独自のサラリーマン文化が息づく街だと言えるでしょう。
大手町と神田という全く異なる文化を持つ街を結ぶのが夜の竜閑さくら橋なのです。
そして二つの文化がぶつかり融合して、全く新しい文化が誕生するきっかけを、この橋が創ってくれるに違いありません。
だれもがシンデレラになれる橋、ひょっとしたらビジネスマンたちもシンデレラになるかもしれませんね。
この橋が私たちにどんな未来を見せてくれるのか、これはもうワクワクが止まりません。
この文章を書くにあたって以下のWebサイトを参照しました。とくに記して謝意を表します。(順不同、敬称略)
また、文中では敬称を略させていただきました。
Otemachi PLACE、大日本コンサルト株式会社、千代田区、土木学会デザイン賞、フォーラムミカサ エコ
次回は竹橋です。
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