極悪非道、ピストル強盗清水定吉 小川橋(おがわばし)編②

前回見たように、世間を騒がせたピストル強盗がようやく捕縛されましたが、捜査が進むにつれて犯人の極悪非道ぶりが次第に明らかになっていきます。

今回はピストル強盗の全容を新聞報道などで解明しましょう。

なお、文章は現代仮名遣いに改ためたうえで、要約しています。

「小川橋の由来」碑周辺の風景画像。
【小川巡査を顕彰する「小川橋の由来」碑と久松警察署】

「このほど久松警察署の小川巡査に捕縛された、現在拘留・取り調べ中のピストルを携帯した強盗の自称「太田清光」は偽名。この男は、本所区松坂町2丁目4番地に住む清水定吉というのが本名。自宅には香川流按摩揉治療の看板を上げていた。また、隣の家に妾を住まわせて、その家には妾の名を表札にあげて、両方の家を行き来できるように改装していた。女は裁縫洗濯などを生業とする人だったので、周辺住民もまさか強盗とは思わなかった。なお犯人の清水は、元は幕府の旗本松平某の家来で、剣や槍、柔術などを習得した男であるとのことだ。」【「太田清光の本名」(時事新報、明治十九年十二月二十一日付)】

そして、犯人逮捕の際に重傷を負った小川侘吉郎巡査、その後どうなったのでしょうか。

「小川巡査は全身に数十か所の傷を負ったものの一命をとりとめて入院、治療の結果いったん退院したものの再び症状が悪化、明治20年4月に若干23歳で死去した。」【『名探偵になるまで』】

久松警察署の画像。
【久松警察署】

小川巡査が命を懸けて捕縛したピストル強盗清水定吉、公判ではこの男のとんでもない所業が明らかとなります。

「東京重罪裁判所は明治20年8月11日にピストル強盗の本所区松坂町2丁目3番地在住の平民・揉治療業の無籍太田清光こと清水定吉(45歳9ヶ月)に(刑法第三百八十八条の強盗殺人を適用して)死刑判決を下した。

同人は明治2年から9年夏までの強盗及び追剥などの犯罪行為を二十余件で公訴期満免除となったばかりの明治9年9月17日午前4時頃、日本橋区北新堀町2番地両替商神戸清衛方に押入って金6円50銭を強取したのをはじめとして明治19年12月3日までに合計16か所(東京日日新聞明治十九年十二月八日付では56か所、碑文では80余件)に押入り合わせて金1,780円55銭7厘を奪い、神田区佐久間町3丁目13番地質商石渡六兵衛方に押入った際に同人を切害したのをはじめ、このほか2名を切害、合計7人に傷を負わせた。」【「清水定吉死刑宣告」(東京日日新聞、明治二十年八月十二日付)】

ときの一大事件、ピストル強盗清水定吉の逮捕劇は、東京中に大変な反響を呼びました。

一例をあげると、この事件について芥川龍之介は次のように回顧しています。

「芥川竜之介」(『日本探偵小説全集 第20篇(佐藤春夫、芥川竜之介)』改造社、1929 国立国会図書館デジタルコレクション)の画像
【「芥川竜之介」(『日本探偵小説全集 第20篇(佐藤春夫、芥川竜之介)』改造社、1929 国立国会図書館デジタルコレクション)】

「最後にこの樋口さんの近所にピストル強盗清水定吉の住んでゐたことを覚えている。明治時代もあらゆる時代のやうに何人かの犯罪的天才を造り出した。ピストル強盗も稲妻強盗や五寸釘の虎吉と一しよにかう云ふ天才たちの一人だつたであらう。僕は彼の按摩になつて警官の目をくらませてゐたり、彼の家の壁をがんどう返しにして出没を自在にしてゐたことにロマン趣味を感じずにはゐられなかつた。これ等の犯罪的天才は大抵は小説の主人公になり、更に又所謂壮士芝居の劇中人物になつたものである。」【芥川龍之介「相生橋」『本所両国』】

このような気持ちは芥川一人ではなかったようです。

明治32年(1899)には、駒田好洋が撮影技師柴田常吉に依頼して映画「ピストル強盗」(あるいは「稲妻強盗」名で公開)が製作されて全国を巡回興行して大好評を博します。

この作品は、清水定吉が捕縛されるところを描いたもので、なんとこの作品が日本最初の劇映画でした。

これほどまでに東京市民の関心を呼んだこの事件はまた、犯人逮捕に命をささげた小川巡査という新たなヒーローを生み出します。

彼の事績を顕彰するために、彼の所属した久松警察署前の橋を、彼の名にちなんで「小川橋」と改称したのです。【「小川橋の由来」碑文、『中央区史』】

ここまで帝都を震撼させたピストル強盗清水定吉の逮捕劇を見てきました。

「小川橋の由来」の碑文によると、殉職した小川巡査を顕彰するために橋名に彼の名をつけた、とあります。

しかし一方では、この由来には異を唱える意見もあります。

実際のところはどうなのでしょうか?

そこで、次回は小川橋にはどのような歴史があるのかを見てみましょう。

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