なかや蒲焼店  昭和レトロの絶品ウナギ

江戸っ子のごちそうといえば、なにを置いてもウナギでした。

そこで今回は、昭和32年(1957)創業の「なかや蒲焼店」(東京都台東区浅草橋2-10-2)をご紹介します。

なかや蒲焼店の外観の画像。

新型コロナ禍の午後、我が家の女性陣が「何か旨いもの食べたい!」と言い出しました。

外食を提案すると、「それは絶対に嫌!」。

ならばテイクアウトしようとなって、どのお店か迷う私に、娘たちがリクエストしたのが前に一度だけ行ったことがある「なかや蒲焼店」さんでした。

毎日のようにお店近辺を通るものの、お店に入ったのは過去に三度だけ。

入り口の引き戸を開けると、まるでタイムスリップしたかのような光景が広がっていました。

隅々までピカピカに磨かれた店内は、あめ色に光る磨き込まれた木のぬくもりにあふれる昭和そのままのほっこりする光景です。

お店の内装は創業当初からほとんど変わってないとのこと、だからこその景観案ですね。

ちょっと低い椅子、店内のそこここに見られる数寄屋風の意匠、どれをとっても私が子供のころ見た光景そのもの、なつかしい気持ちがこみ上げてきます。

うちの娘たちは、「なんか映画で見たことある感じ、シブくない!?」と喜んでいました。

椅子席が5テーブル、畳席が5テーブルの店内は、ランチタイムを中心に常連客で賑わっています。

さて、女性陣ご所望は鰻重(上)【2,900円】でしたが、私の財布の事情で鰻重(並)【2,300円】にします。

ちなみに、鰻重は(特上)【3,500円】、上、並と三種類あって、うなぎ蒲焼の量が変わります。

今回はテイクアウトをお願いしたのですが、混雑時でなければ配達もしてくれるそうです。

テイクアイトの素敵な包みの画像。

夕刻に注文した鰻重を取りに伺うと、かわいく風呂敷包にまとめてくださっていました。

家で食卓に並べると、子供たちは大興奮、いつもなら夕食前にひと悶着あるのですが、今日はお行儀よく席に着きました。

みんなでいただきますをいって器の蓋を取ると、「うわああ!」とう歓喜の声、みんなの弾ける笑顔で食卓はにぎやかになりました。

なかや蒲焼店さんのたれは創業以来 継ぎ足してこられた伝統の味、少し甘めのたれはうなぎの香ばしさと合わさって口の中を幸せいっぱいにしてくれます。

いつもはだらだら食べる下の娘も、ものすごい勢いでほおばって わずか10分ほどで完食です。

「今度は親子丼?」「焼き鳥もいいね」と会話が大いに弾むのでした。

私は なかや蒲焼店を見るたびに思うことがあります。

外食文化の栄えた幕末・明治時代には、浅草橋界隈では町ごとにそば屋と煮しめ屋があり、数町ごとに寿司屋とウナギ屋がありました。

古典落語「後生うなぎ」をはじめ、ウナギは江戸っ子の大好物、ちょっと特別な日を祝うのに欠かせないご馳走だったのです。

勝川春亭「(蒲焼店)」1806 大英博物館の画像。
【勝川春亭「(蒲焼店)」1806 大英博物館】

私がこの町に来てしばらくたった年末、古典落語「二番煎じ」よろしく消防団の年末警戒中の雑談で、ウナギ屋の話になったことがあります。

それぞれの町に地元民の愛してやまないウナギ屋があり、長年にわたって丹精した結果、それぞれのお店独自のタレの味が出来上がっていました。

団員が自分たちの町のウナギ屋の自慢話に花を咲かせるのですが、その顔がなんとも言えない幸福にみちたものだったのが忘れられません。

彼らが言うには、子供のころから慣れ親しんだ自分たちの町のウナギ屋の味が体に沁み込んでいるのだそうです。

これぞまさにソウルフード、ウナギの味が舌の記憶となって自分たちの人生と重なっているのだ、と大いに驚いたことを思い出します。

今や町の様子もすっかり変わり、町のウナギ屋の多くが廃業してしまいました。

なかや蒲焼店さんがあるのは浅草橋の町の中央に位置する新福井町会のど真ん中です。

新福井町会は個人の戸建住宅と店舗が入り混じるエリアで、今では珍しい細い路地の多い地域です。

江戸時代には秋田佐竹藩の上屋敷だったこの街には、明治以降多くの職人たちが住んでいました。

現在ではすっかり職人の工房はなくなりマンションも建ち始めていますが、下町らしい雰囲気が良く残るすばらしい町です。

この地域住民の憩いの場が、なかや蒲焼店さんなのです。

だから私は、なかや蒲焼店で若大将がウナギを焼く姿を見るのが大好きです。

若大将が新福井町会の若手の中心として頑張っておられることももちろんですが、この町の住民の暮らしと記憶に寄り添いながら伝統の味を守っておられることに大いに安心するからです。

食べ終わって器を返しに伺った折に、おかみさんと少し話をしました。

数度しか行ってないのに私のことを覚えていてくださって、いろいろとお店のことやこの町の歴史や暮らしについて教えてくださいました。

お礼を言って店を出た後、財布は少し傷みましたが なんだか幸せな気分になるのでした。

なかや蒲焼店さんは常時全席喫煙可ですが、子供が来店している時などたばこをご遠慮いただくことがあるそうです。

なかや蒲焼店 店舗情報

所在地:東京都台東区浅草橋2-10-2  

アクセス:JR中央総武線 浅草橋駅西口から北に約200m。(徒歩約5分)

営業時間:11時30分~14時30分、16時30分~20時

定休日:火曜・祝日

【文中ならびに写真のメニューと料金は、2020年2月時点のものです】

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