さて、前回もみた久松小学校の古い写真「久松小学校外観」(『東京市教育施設復興図集』)をよく見てください。
すると、この写真の右下に橋が写っているではありませんか!
しかもこの橋、シルエットになっているので細かいところは見えませんが、木方杖であるのは確認できます。
元高砂橋編に見たように、元高砂橋には擬宝珠があって、江戸時代の伝統を色濃く残す橋でしたので、写真の橋は違う橋です。
元高砂橋の姿をイメージしたのが次の想像図。
そこではっと気が付きました。
元高砂橋編で出てきた、橋の名を踏襲した新しい高砂橋に違いない!
この高砂橋は木方杖ラーメン橋でしたので、久松小学校の写真に写る橋とまさに一致するのです。
軽く感動を覚えつつ、この橋がどんな橋だったのか、早速調べてみることにしたのです。
それでは、調査の結果を一緒に見てみましょう。
高砂橋は日本橋富沢町と日本橋久松町を結んで浜町川に架かる橋で、浜町川の上流側が栄橋、下流側が元高砂橋がお隣です。
橋長13.5m、幅員11.0mの木方杖ラーメン橋で、昭和3年(1928)5月に設計され、程なく建設されたとみられます。
そこで、この橋の想像図を描いてみました。
関東大震災からの帝都復興事業における区画整理事業に伴って架設されたのですが、橋自体は、帝都復興事業で架設されたものではありません。
区画整理事業で新しくできた区道をつなぐ橋として建設されたようです。
橋名は、一本下流側の街路に架かっていた高砂橋の橋名を踏襲し、旧高砂橋は「元高砂橋」と改名しています。
私の推測ですが、わずか50mほど下流に元高砂橋があるのにこの橋が建設された理由には新しくなった久松小学校に子供たちが通いやすいようにという配慮があったのではないか、と思うのです。
昭和19年撮影の空中写真を見ると、はっきりと久松小学校脇に架かる高砂橋の姿が確認できます(赤矢印部分)。
今度は高砂橋そのものについて、もう少し見てみましょう。
『中央区の橋・橋詰広場』によると、この橋の特徴とデザインは「(約100m上流に架かっていた)栄橋と同じ方杖タイプの木橋だが、木材の組み方に違いがみられ、全体的に堅固ないしは鈍重な方杖橋になっている」と言います。
鈍重かどうかは別として、デザイン性よりも機能を重視した橋であることは間違いありません。
震災前に多用された形式の橋でもあるので、特別な技術がなくても造れる橋ともいえます。
さらに、「まず主桁は、高砂橋が二層に梁を組んでいるのに対し、栄橋は方杖を両側からサンドイッチするように中央スパン部を補強し、見た目は軽快な桁橋になる」と、きわめてよく似た橋が並ぶ中でもさらに無骨なのでした。
さらに、高砂橋は橋台がコンクリートの打ち放しで、方杖の受け部もコンクリート製と、実用一点張りともいえる作りになっていたのです。
ちなみに、栄橋の想像図がこちらです。
では、栄橋と高砂橋はなぜ少しだけ違うつくりになっていたのでしょうか?
じつは、栄橋は震災前の大正10年6月に設計されていて、あまり時間を置かずに建設されたと考えられます。
そしてこの栄橋は、関東大震災でも奇跡的に残っていたのです。
このことから、昭和3年(1928)設計の高砂橋は栄橋をまねて造られたのではないでしょうか。
震災復興で周囲に華麗な橋が次々と造られるなかで、限られた費用と工期で新しく橋を架けるためにこのような方法がとられたのではないか、と考えています。
実際、橋の建設費は、鉄筋コンクリート>鋼>木と、費用の面では木造が最も安価となっているのです。
さらにデザインも近場から転用することで、大幅な低価格化と建設期間短縮に成功したことが推察できます。
こうして新しく誕生した高砂橋ですが、すぐに大きな危機が訪れます。
橋ができてわずか17年後の太平洋戦争末期の昭和20年(1945)3月、米軍による東京大空襲によって東京の下町一帯は再び壊滅的被害を受けてしまいます。
この橋周辺も例外ではなく、一面の焼け野原となりました。
「東京大空襲で焦土と化した東京」(『日本橋消防署百年史 明治14年-昭和56年』)に写っている高砂橋(赤矢印)は焼け落ちてしまっているのが分かります。
昭和22年撮影の空中写真を見ると、両岸に石積の橋台がむき出しになったこの橋の姿が確認できます(赤矢印)ので、橋は完全に焼失して失われてしまったのです。
そしてこの写真からは、橋がない状態でしばらくそのままにされていたことも確認できるのです。
冒頭で見たように、久松小学校は昭和20年10月から授業を再開していますので、高砂橋がなくなって大いに難儀したことでしょう。
前に見たように、元高砂橋も消失していますのでなおのことです。
ここまで高砂橋の歴史をたどってきました。
東京大空襲で焼失したこの橋は、どうなってしまうのでしょうか?
次回は、高砂橋のその後を見ながら実際に歩いてみたいと思います。
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